茶道の精神と「ものの終活」
私はかつて、京都市で京菓子職人として生きていました。菓子づくりを通して学んだ、最も大切な精神。それは、茶道の根本思想である**「和敬清寂(わけいせいじゃく)」**です。
そして今、私は遺品整理士として、生前整理、そして遺品整理という、故人の人生の終焉、あるいは新たな出発点に立ち会う仕事を、この高槻市や近隣の八幡市を含む関西一円で行っています。一見、華やかな茶席の美意識と、物を片付ける現実的な作業は遠い世界に見えます。
しかし、この現場こそ、実は「和敬清寂」の四つの精神が、最も深く息づき、求められる場であると日々痛感しています。

【本質】「和敬清寂」が示す理想の向き合い方
「和敬清寂」は、茶室という限られた空間での、亭主と客の心のあり方を示す言葉です。私は、生前整理や遺品整理の現場においてもこの四つの教えを大切にしています。
1. 和(わ):調和の心
• 茶道の意味: 互いの個性を尊重し、場を調和させる心。
• 整理業務における実践: ご依頼者やご遺族の多様な思い(残す、手放す)を尊重し、作業全体を円滑に進める。
2. 敬(けい):敬いの心
• 茶道の意味: 互い、そして道具や自然に敬意を持つ心。
• 整理業務における実践: 故人やご自身の残す**「物」と「人生」に深い敬意を払い**、粗末に扱わない。
3. 清(せい):清らかな心と空間
• 茶道の意味: 空間と心を清らかに保つこと。
• 整理業務における実践: 現場を物理的に清掃するだけでなく、雑念を払い、清らかな心で作業に臨む。
4. 寂(じゃく):静寂と不動の心
• 茶道の意味: 動じない静寂の心と、侘びの美意識。
• 整理業務における実践: 人生の重みに動じず、心を鎮めて「本質」を見極める。

【実践】心を尽くす「一期一会」
この八幡市や周辺地域での業務においても、最も大切にしているのが、茶道で学んだ**「一期一会」**の心です。
遺品整理は故人の最終章、生前整理はご自身の再出発。どちらも、ご遺族やご本人にとって、人生の大きな区切りとなる、二度とない機会です。ご依頼者との対話、一つひとつの品物に接する瞬間を二度とない機会として、真摯に向き合うこと。この「真摯に向き合う姿勢」こそが、京菓子職人時代に培った、私の「本質を見抜く眼」の礎となっています。
私にとって、この整理の現場は、茶室と同じく、**人生の美意識と精神性が試される、厳粛な「一期一会の場」**なのです。

【結び】伝統の粋を未来へ
京菓子の「粋」も、遺品整理の「真摯さ」も、すべては**「和敬清寂」**という四つの教え、すなわち「人と物、そして自分自身の心とどう向き合うべきか」という普遍的な哲学に支えられています。
京都市で学んだ伝統の精神を胸に、高槻市をはじめとする地域の皆様の「物の終活」を、これからも心を尽くしてお手伝いしていきたいと願っています。